609

坂の途中で



心拍数で
この道は測れない
愛や工夫で
変えられるのはその意味だけ

坂の途中で
見たこともない獣と出会った
一目見て彼はそいつを嫌った
噛み付かれそうな気がしたから
だから彼は
そいつが飛び掛かってきたのを
襲い掛かったと決め付けて
持っていた銃で撃ち抜いた
そいつは動かなくなった
彼は振り返らず先を急いだ
しばらくして気付いた
銃に弾を入れ忘れていた

善と悪だけで
この道は測れない
彼を撃ち抜いた
自分を善と信じたい弱さ

坂の途中で
見たこともない木の実を見つけた
空腹だった彼は甘い匂いに誘われた
まるで木が彼に実を捧ぐかのようで
だから彼は
それが少し苦くても感謝して食べた
虫食いの穴も気にせずに

それが小さな虫の為に
産み落とされた奇跡の実だったなんて
知らない方がいいだろう
そして知る由もないだろう

信じたところで
裏切りは消えやしない
神様にも信仰の自由はあるだろう

坂の途中で
美しい一人の女性と出会った
一目見て彼は彼女を愛した
だけど少しだけ大人になっていた彼は
その女性に聞いた
「私を愛してくれますか?」
長い沈黙を破った声
その声の終わりを待たずに響いた銃声
彼女は動かなくなった
彼は振り返らず先を急いだ
しばらくして気付いた
彼女の言葉には暗号が隠れてた

心拍数で
罪なんて滅ぼせない
愛や工夫で
変えられるのはその意味だけ

2009/3/30 21:33

前へ/次へ
リストに戻る